中央高速道路八王子インターチェンジから車で約10分。八王子市加住町にある八王子長田養蚕は、都内で唯一となった養蚕農家。かつて「桑都」と呼ばれ、養蚕や製糸・絹織物業が盛んだった八王子の地で、伝統を守り続け、次世代へつなぐ活動に力を入れています。
絹織物が盛んに商われていた八王子
養蚕とは、絹糸を製糸するために蚕を飼育し、繭を生産すること。蚕の飼料となる桑の生産に適していた八王子は、古くから養蚕が営まれており、江戸時代後期には「桑都」と呼ばれ、生糸生産や絹織物が盛んに商われていたとされています。明治時代に製糸技術が向上すると、高品質の日本産生糸は海外での需要が拡大。輸出品の6割が生糸を占めた時代もあったとか。しかしその後、戦争や化学繊維の台頭により生糸価格が下落。生産者の高齢化、後継者問題なども相まって、養蚕農家は減少。2020年、東京都内で養蚕を営むのは八王子長田養蚕の一軒だけとなりました。
19歳で継いだ12代目
代表の長田誠一さんが養蚕農家を継いだのは19歳の時。「高校卒業直後に父が急逝。12代目として、祖父や母に教わりながら一つずつ学んでいきました」と話します。長田さんは、春に約4万5000頭、秋に約3万頭の蚕を飼育。出来上がった繭を製糸工場に出荷しています。「蚕は、昆虫ですが人間の営みのために品種改良された〝家畜〞なのです。餌を探す能力が退化しており、自然界で生き延びることはできませんので人間の世話が必要。卵から孵化(ふか)して繭になるまでは約4週間。生後2週間くらいは、桑の葉を細かく切って〝離乳食〞を与え世話をします。その後も、新鮮な桑でないと食べないので、朝・夕に桑の葉を刈ります。温度管理も大切ですし、まさに手塩にかけて育てています」。
一つの繭から取れる生糸は約1500m。紡いだ糸で作ったランプシェード
学習支援やSNS発信も
長田さんは、養蚕教育も熱心に取り組みます。八王子市では、小学3年生の総合学習で養蚕について学び、実際に蚕の飼育体験を通して、自分たちの街についての学びを深める機会としている学校が多く、長田さんにも学習支援のオファーが。「学習時間数に合わせて、出張授業、見学、蚕飼育の手ほどき、生糸紡ぎや紡いだ糸での工作などカリキュラムを用意し、可能な限り学習を支援しています」。子どもたちへの指導で大事にしていることは、〝命〞を扱うことへの意識だと長田さんは話します。
長田誠一さんの「蚕のぬいぐるみなど教材を用意した授業」が人気
「蚕は、繭の中でさなぎになった段階で命を絶たせます。成虫になって繭を破って出てきてしまうと、生糸を紡ぐことはできませんので。私たちの生活が、家畜の命の上に成り立っていることを学んでほしいです。飼育を怠ったり、命を粗末にしたりする子がいたら、もちろんしっかり叱りますよ」と。
さらに、SNSの動画や写真などで養蚕の情報を発信。「先人が養蚕の歴史や文化を紡いできたように、次世代にも養蚕の魅力を伝え、養蚕を通じて、人と人とを紡ぐ機会にもなれば」と、抱負を語ってくれました。(八王子長田養蚕facebook:https://www.facebook.com/osadayousan/)
長田さんの繭は、「道の駅八王子滝山」で販売しています
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