長さ約60㎜、直径約2㎜の小さな木材・つまようじ。よく見ると先端はきれいな円すい状、持ち手側には溝が施され、茶褐色に着色された部分もあるなど一本の中にさまざまな表情を持ち合わせています。そんなようじを巧みに使い分け、立体的なモチーフを表現したのが「ようじアート」です。(写真:水野文男さんと雷門)
年で約200作 ようじは秀逸な木材
この春完成した首里城正殿
東京タワー、スカイツリー、雷門、富士山、胡蝶蘭、ユリ、ウエディングケーキ、コイにザリガニ……。八王子市上川町にある「ようじアート館」には、ようじで作られた立体的な作品がずらり。その緻密で、精巧な作りに目を奪われます。制作したのは水野文男さん。学生の頃、マッチ棒で城の模型を作ったのが作品つくりのきっかけ。「マッチ棒は四角だから作りやすいと思ったのですが、木材としては強度が弱かったり、けば立っていたり。角型も意外と不ぞろいで扱いにくかったので、より良い材料を探していた時に、ようじで作ることを思い付きました。ようじは、使用する部分によっていろいろな表情があるので、表現の幅が広がりました」と話します。
8万本を使った五重塔(左)と4年以上かかった大阪城
趣味で作り続けて50年以上。これまでに手掛けた作品は約200点にも及びます。8万本を使った「五重塔」や完成まで4年以上を費やした「大阪城」などの大型代表作に、この春、「首里城正殿」が加わりました。焼失後の復興を願い、一足先に〝再建〞を実現。使ったようじは約1万本で、3カ月ほどで完成。特徴的な朱色の着色は、妻の光代さんが担当。人形作家の水野和子さんが作った沖縄の歴史的な装束「琉装」姿の人形と共に、5月からお披露目しています。
写真を元に作品づくり 曲線美も表現
花びらの部品を立体的に重ねた胡蝶蘭
ようじが持つさまざまな表情を巧みに使い分け
作品は写真などの資料から頭の中で立体をイメージしながら作り上げていくそう。「真っすぐなようじでどうやって表現できるのかを考えるのが楽しい」と水野さん。建造物だけでなく、近年は、曲線が多い草花にも挑戦。ようじをつぶして平たくし、反らせることで花びらを再現するなど発想力と工夫、手先の器用さが光る〝技あり〞の作品が並びます。
誰もが立ち寄れる場所まちづくりにも貢献
持ち出して市民センターなどで展示していたこともありますが、壊れやすいためあまり移動はできないのが難点。作品を多くの方に楽しんでもらおうと、自宅の一角に『ようじアート館』を設け、公開しています。高齢化が進む上川地区では、豊かな里山と共生できる魅力あるまちを目指し、上川まちつくり構想を策定。未来の上川地区の魅力を考えた『上川みらいマップ』には、水野さんのようじアートも登場しています。「ようじアートが上川地区を知ってもらうきっかけの一つになれば」。八王子市や上川町にゆかりのある作品で話題作りに貢献したいと次作への意気込みも語ってくれました。

❖ ようじアート館
八王子市上川町3357
※窓越見学は自由
※個人宅につき訪問時間などは配慮を
※事前連絡すれば館内見学も可能。
☎042-654-4468(午前10時~午後3時連絡可)